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 「こちらはヨット・ドンキホーテ おはようございます。感度いかがですか。」「徳山さん おはようございます。感度良好です。ポジションをお願いします。」、「はい、現在のポジションは12°.52S、172°12E、繰り返します12°52S、172°12Eです。確認できましたか」から始まる朝10時30分からの定時通信、長崎の旗揚げで有名な唐八景公園、そこにアンテナを上げて交信することが多かった。
眼下に橘湾が見え、ヨット・ドンキホーテが走っている南方面には障害物がない最高の場所だ。旗揚げはテレビ、新聞などても紹介されていると思うが、そのおかげで電線も無い。旗が電線に掛かっては長崎の風物も台無しになる。

なるべく、電線の無い場所か、電気の使用量が少ない場所、例えば団地造成中の小高い丘とか、山の山頂とか、海岸沿いも悪くは無い。工場、パチンコ屋やネオンきらびやかな場所からの通信は不向きである。
それは一人静かに走る長距離航海者への配慮ではなく、電気や電線からノイズが出てそれで信号がかき消されるためである。

 第二の通信場所として利用したのは、立山公園の「長崎東高等学校」の前で長崎港が一望できる場所、民家かありそれなりにノイズもあるが家から10分と近く、会社からも近いのは魅力だったので12時20分からのオケラネットにかなり利用させて頂いた場所である。考え過ぎかもしれないが、女子高生も通る高等学校の前に車と止めて通信するのは明るい時間にしないと怪しい人物に見られそうだ。

どの場所でもそうだが、無線免許の携帯はもちろんのこと、航海計画、テープレコーダーそれに海図はなるべく目立つ場所において置く事にした。その他の場所としては、長崎の三重漁港(京泊町)、ハウステンボスマリーナ、大村湾のヨットからや長崎市民森の長浦岳山頂から、それに大雪の日は3日間自宅から通信を行った。
出港から帰港までほぼ毎日、10時30分の定時連絡を行い位置と状態を確認できた。

 私がこのサポートをするきっかけは99年の5月にさかのぼる。当時私は長崎サンセットマリーナにヨット光華を係留していた。その時にヨット・ドンキホーテ、オーナー徳山さんがシングルハンドで入港してきた。ヨット初心者の私はやっと30ftの光華に慣れて来たころで、44ftをシングルハンドで、それも鹿児島の「火山巡りヨットレース」に参加するために回航しようとしている。それで挨拶をしたのが最初のきっかけだった。

その後、何度かレースのクルーで乗せて頂きヨット仲間にも紹介してもらった。
そして、このクルージングを始める半年ほど前、ドンキホーテに備え付けられているアマチュア無線機のスイッチを何気なしに入れた。
その無線機は何の音も出ず、周波数表示も無く明らかに故障である。「徳山さん、この無線機故障していますよ」と私が言うと「そりゃあかん、修理せないかんなー」と、私が「どーせ使わないのでしょう。また壊れますから修理しても同じですよ」と、潮風で錆付いて故障すると言うと、徳山さんが「長距離に行くときに使うかもしれへん」それで、無線の知識がある私が船から取外し修理に出した。私は中学生の頃にアマチュア無線の免許を取り、ここ十数年は興味を無くして使って無い。レーダー、GPS、無線機
もちろん、ヨット光華には無線機は取付けているが電波を出したことすら無い。今の通信手段はまず携帯電話、それに衛星通信もある時代で、ディクルージングでのアマチュア無線の必要が無い、そう考えている私はその時期まで徳山さんの計画を知らなかった。

 徳山さんの中ではドンキホーテを購入した時からこの計画は始まっていた。
中古艇なので最初のメンテナンスは相当苦労したようだ、徳山さんの奥さんが「買ってから、次から次へと故障して主人はメンテナンスばかりしていました。」との言葉通り陸電設備、充電器、発電機、インバーター、給水設備、エンジン等のあらゆるトラブルが発生した。それに船底メンテナンスやワックス掛けまでも自ら行っていた。

44FTの船底メンテナンス、それだけでも大変、徳山さんの何気ない言葉に私の30FT、ヨット光華の船底メンテナンスを塗料落しから行ったら土日、祭日を対やしても終わりそうになくアルバイトまで来てもらい大変な手間と時間が掛かった。
慣れてない事もあり30FTを1名で行なうと20日間の作業換算だった。44FTはその2倍以上の労力が必要になる。その当時は何人かで作業したようだが、一度船底塗装をお手伝いした時、徳山さんは一人で作業を行っていた。準備、航海計画、資金、スケジュール調整、すべてを徳山さんが行った。これかこの航海の基本であり、総てである。
今回のサポートはそれにほんの少し参加しただけなのだ。

 実際、私の準備は出港3ヶ月ほど前から始まる。当初、何人かが同乗するような話もあったが、この時点ではシングルハンドでの準備を始める。
最初は通信設備の点検、アマチュア無線機はHF無線機(短波帯)とVHF無線機(超短波帯)の2台、マリンVHFも1台が船に備え付けられている。
このアマチュアHF無線機は一度修理しているが点検中に受信音が切れるという現象が発生。原因は外部スピーカープラグが外国製で日本国内の標準品より若干長くそれで接触不良を起こしていた。それを交換し、外部スピーカーを差込んでも内部スピーカーが切れないように改造、ヘッドホンも用意することにした。

 アマチュア無線のVHF無線機は受信しても何の信号も入らない。アンテナを探すが見当たらない。船の外には、バックステーを碍子で絶縁したHF用、スターン側にはマリンVHF、短波FAX、GPS、アンテナはこれだけしか見当たらないので、アマチュア無線のVHF用アンテナは無いと思いハンディー機で代用する事とする。
HF用アマチュア無線機の使い方は受信範囲が0.6〜30MHzと広いのでそれにニュースが聞けるようにNHKの外国向け日本語放送の周波数をセットした。このNHK番組表と周波数はNHKのFAXサービスで取り出せる。

 送信範囲はアマチュア無線の範囲になるので、7MHz帯と21MHzの定時通信周波数とオケラネット、シーガルネットの周波数をセットした。
この、オケラネットはヨットの長距離航海者なら存在を知らない人はいないと思う。

 通信は、毎日12時20分から始まり周波数は、21.437MHz付近、アマチュア無線の免許とコールサインは必要だ。航海中のヨットの位置確認と、陸上局を含めての情報交換を行なう。交信の最初は、航海中のヨットを呼び出す。順序は遠方からだ。その次に海外の泊地に停泊しているヨット、海外の定住者などを呼出し、さらに国内をエリア別に呼び出して行く。
また、同じようなネットワーク、シーガルネットは7時00分から周波数は21.382MHzで通信を行っている。

 それらの2つの周波数をセットし、その中央付近、21.408MHzを定時通信の周波数と取決めセットした。アンテナのマッチング(同調)の問題もあり、お互いの周波数はあまり離さないようにした。また、近距離用で7.058MHzもセットした。

 アマチュア無線通信の出港前の取決めはAM10時30分で毎日定時通信を行なう。
周波数は長崎から奄美までの近距離は低い周波数の7MHz、奄美を過ぎてからは21MHzで通信を行なうと決めた。この7MHzは波長が40mと長く日中は地表波が主なので比較的に近距離向き、一般のAMラジオの周波数に似た性質だ。
昼間は近距離か良く聞こえ、安定した通信が行なえる事で短波ラジオ、短波FAXなどの利用が多くアマチュア無線の割当てが100KHz幅と少ない。日中の通信範囲は日本国内から韓国ぐらいまでで、多くのアマチュア無線局が聞こえる。狭い中、短波ラジオ放送まで聞こえ混信が絶えない。

21MHzは波長が15mと短く、電離層の状態に大きく影響される反面、通信距離も長い。いま冬場の時期だと長崎からは日中、大阪・東京付近より先から北海道までの国内と海外ではグアム、ハワイ、オーストラリアが中心。夕方からはアメリカ、ヨーロッパ、ロシアが聞こえてくる。世界1週のヨットだと,日本から半分位のカバーが出来る。

また、近距離は地表波の減衰が大きく、電離層反射は影の部分になるので聞こえない。長崎から南方面は奄美付近までが電離層反射の影、スキップゾーンになる。この電離層の状態は太陽の紫外線と黒点活動に大きく影響され数年周期で変化する。毎年同じ状態では無く、今の黒点活動は穏やかな下降期なので通信状態も悪くなる。この電離層は毎日、毎分で変化し、日本国内や海外が全く聞こえない時や交信の途中で急に聞こえなくなる場合もある。日が沈むとこの周波数の電離層は上空に上がるのでグアムからフィジーは日中から夕方までしか通信できないようだ。周波数帯域は450KHz幅と広いので混信は少なく、今回の交信に適している。この周波数の定時通信の他に、オケラネットにもできる限り参加すると決めた。

 さらにSS−TVで画像通信したいと準備を始めたが間に合わなかった。このSS−TVはアマチュア無線を使った画像伝送だ。デジタルカメラで撮影して、パソコンに取込み、さらにパソコンから無線機に接続し、1枚の画像を数十秒で伝送する。ドンキホーテにはこれらの機材があり接続可能に思えたが、パソコンと無線機の愛称は非常に悪い。パソコンから発生するノイズや、パソコンを動かすためのDC−ACコンバーター(直流の12Vや24Vを交流の100Vに変換する装置)からのノイズが無線機の受信信号を妨害するためだ。ドンキホーテが出港当時、受信状態が悪かったのはオートパイロットに内蔵されているコンピュータから発生するノイズの影響だった。それまで含めた準備や、調整は出港までのわずかな時間では無理だ。今から先はパソコンを搭載するヨットも多いと思うが、無線機との問題が必ずあるので事前の確認は必要だ。

また、陸上サポート側の定時連絡の設備は市内で無線設備がある場所から通信するとし、車での通信や自宅からの通信はあまり考えて無かった。そして、交信不能でもEPIRB(衛星を使った非常用位置発信機)が発信しない限り遭難とは見なさないとし、アマチュア無線機の予備は搭載しなかった。
出港後に思った事だが、無線機には消耗品が1つある。それはマイクロホン、これは通信中に引っ張り、断線して接触不良になる場合がある。ドンキホーテとの通信中にガザガザとノイズが入り心配した。これはマイクロホンコネクターの接触不良だったが、マイクロホンの予備は必要と思う。予備のマイクロホンは、後にフィジーまで送った補修部品に入れてもらった。

 その次の課題は気象FAXだ。ドンキホーテに積んでいたのはフルノの気象FAXでオプションのNAVTEXは入っていない。このNAVTEXが受信できる場合は日本では海上保安庁から発している航行警報が受信でき、GUAMU付近でも航行警報が受信できるのでNAVTEXの周波数、時間帯の確認が必要だ。気象FAXの方は日本近海の日本から発信しているJMHの気象図は何の問題も無く良好に受信できたが、グアム付近、フィジー付近の気象図、海外から発信している気象FAXが全く受信できない。この気象FAXのメーカーのフルノに聞いてセットされている周波数もチェックしたがセットされている周波数はすべて問題ない。セットされている周波数は気象FAXの製造時期でも異なるので古い形式はメーカーに確認したほうが良い。気象FAXを受信する手順は最初、受信局を選局する。日本ならJMH、グアムならNPMで受信したい地域の発信局を設定する。その次に同じ発信局でも周波数が複数あるので受信時間帯により受信出来そうな周波数をセットするか、自動選局キーを押す。
自動選局は高い周波数から順に、セットされた周波数を自動的にスキャン(選局)する。気象FAX

受信した電波がある所でスキャンが停止する。それは気象FAXの信号で無くても停止し、信号を解読しようと止まった状態になるので注意して聞いておく必要がある。音は小さいモニタースピーカーから出力されるので、正常な気象FAXの音を覚える必要がある。正常な電波なら、スタート信号を待機して同期を取る。そして、その信号が見つかり次第、一行づつ、点々を書くようにゆっくりと印字され、1枚のFAX受信が十数分後に完成する。

グアム気象受信で、テストした時は、自動受信でスキャンは停止するが別の放送電波などで、気象FAXは1度も受信できない。取りあえず、その地域でないと日本では遠すぎて上手く電波が受信できないのか、受信した時間帯が悪いのだろうと結論を出した。
周波数は間違い無くセットしたので現地で受信出来ると、なんとも曖昧な話だ。しかし、南下するにしたがいFAXが置いてあるスターン側の部屋が暑く、とても気象FAXの確認などはできなかったそうだ。このFAXの受信周波数はアマチュア無線の周波数に近いので、大事なFAX受信中には電波は出さないようにする。定時連絡の時間帯はこの辺にも注意が必要だ。

また、インターネットでアメリカから発信されているNOAA(National Oceanic and Atmospheric Administration)の気象情報ではグアム付近の気象FAXの内容を掲示していて、送信時間帯も載っている。出港前に受信時間を変えて根気良く探して、内容を確認した方が良い。HF帯が受信できるアマチュア無線機とパソコンで気象FAXの受信ができる。パソコン側の解読ソフトはフリーソフト(無料)の良いのが出回っている。

残念ながら、今回はとてもそのような時間は無かった。この海外の気象FAX情報をお持ちの方、今後の長距離航海者の為にぜひノウハウを公開して頂きたい。メールでも頂けるとこの場で掲載したいと思う。
やはり出港前の準備は必要だったと感じたが、幸運にもこの問題は無線通信で解決できた。

 マリンVHFはチャンネル16CHの受信と88CHで送信テストした。一応ハンディタイプも別に用意、非常時に持ち出せるよう考慮した。このハンディタイプは、サイズの割に送信出力が大きく電池消耗が大きく寿命が短いので、電池だけは新品に交換した。電池は充電できるニッカドタイプだが、1年ほどで寿命が来ると考えたほうが良い。12時間ほど充電して、規定時間の受信と送信を繰り返
して電池の状態を確認する。

 マリンVHFは近くの客船、タンカーと通信できるので緊急の通信手段となる。
もし緊急で使用する場合でも1〜2時間程度しか使えないので無闇に送信しては行けない。視界に相手の船が見えてからか、受信している可能性のある時に、毎正時(00:00から1時間毎)に1度電波を出し何の応答も無ければ、次の正時までスイッチを切り電池を温存する。このハンディタイプのマリンVHFは必要である。これはアマチュア無線機では代用できない。救助しようとする船はアマチュア無線を聞いて無い。

 ここまでの準備は、平日は仕事の合間にメーカーに電話したり、インターネットで資料を調べたりの軽作業しか出来ず。都合の良い日曜日にヨット・ドンキホーテに行って作業をした。ついに出港1週間前になってしまった。

 その1週間ほど前に徳山さんから「オートパイロットのリモコンが来たのやけど!」と言われて、オートパイロットの系統を調べ、あちらこちらから部品を集めて結線した。ソーラーパネル
ここで故障すると出港延期、慎重に作業する。接続線は3本しか無く、電源、データ、ア−スである。テスターで計りながら接続して動作確認をする。このオートパイロットのリモコンは帰港まで正常に動作した。さらに、徳山さんが以前注文していたソーラーパネルが出港3日前に送られて来た。
これは1枚が12V用で2枚を直列に接続してドンキホーテに必要な24V作り出す。防滴を施したケースに、逆流防止ダイオードと、落雷の対策にヒューズを組込んでマストの前側、左右に取付けた。

これは帰港時には取り外されていた。錆びが出たのが主な問題のようだが、直列接続の場合、光が弱い方のパワーしか出ない。これは懐中電灯などで1本を新しい電池、もう1本を古い電池のままにすると、明るさは古い電池の時と同じ程度になる。それと同じ原理である。

船の左右に置くと、セールの影などでどちらかのパワーが下がる。24V仕様の船は4枚のパネルで右2枚、左2枚がそれぞれ直列接続、その左右を並列に接続する。そうでないと十分な充電は出来ない。これは出港してから気づいた事だった。
出港前日までこれらの細かい作業に追われた。

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